東京高等裁判所 昭和32年(う)1419号 判決
被告人 永沼定夫
〔抄 録〕
控訴趣意第一及び第二について。
共同正犯の成立に必要な共謀すなわち共同犯行の意思連絡ありとするには、必ずしも事前の謀議あることを要せず、二人以上の者相互の間において暗默裡に互に協力して共通の犯意を実現する意思を相通ずるにおいては、これありとするに十分であり、既に右共謀を遂げ共同してこれが実行行為に出でた以上は、共謀者は各自、右共同行為によつて生じた事実の全部につき正犯としての責を負うべきものであるところ、傷害罪は暴行の結果的加重犯としても成立し、結果の発生を予見しなかつたことにつき犯人に過失あることを必要としないのであるから、二人以上の者が言語による害悪の告知及び暴行を手段として他人を脅迫し財物を喝取することを共謀の上、共同してこれが実行行為を遂行中、共謀者の一人が右脅迫の手段として加えた暴行により被害者に傷害を負わしめたときは、他の共謀者は右恐喝のほか傷害の事実についても、その結果発生を予見しなかつたことにつき過失あると否とを問わず、これが共同正犯としての責を負わねばならない。これを本件について見るのに、原判決(第一の事実)は、決して所論の如く、原審相被告人桜井健一が片面的に被告人の犯意を感知したことのみをもつて直ちに恐喝事実の共謀ありと断定したのではなく、右両名が被告人と相互的に意思を相通じたことをもつて共謀の成立ありと認定したものであることは、判文自体に徴して明瞭であり、而して、右事実のほか原判示第一の事実は、原判決挙示の証拠により優にこれを肯認するに足りるから、これを冒頭説示の趣旨に照し、被告人は、恐喝同未遂の罪のほか、傷害の結果についても共同正犯としての罪責を免かれない。原判決が右事実につき被告人を恐喝、同未遂並びに傷害の共同正犯に問擬したのは正当であり、記録を精査しても原判決には、所論の如き事実誤認乃至は理由を附せず、又は理由にくいちがいがある等の違法あることを見出し得ない。所論は、原判決の趣旨の誤解に出ずるか又は、原審が採証及び認定につき事理、経験の法則に従い自由に判断したところを非難するに帰し、採用し得べき限りではない。論旨は理由がない。
(三宅 河原 遠藤)